医学生・研修医向け|Dr.前島の膠原病論
2022年に『Dr.前島の膠原病論』を出版しました。
この本は、教科書に並ぶ膠原病の知識を覚えるだけでなく、それらの「点」をどのように「線」でつなぎ、病態や臓器のつながりから考えるか――専門医の頭の中にある一つの「地図」を形にしたものです。
この連載では、本書で示した考え方が、膠原病を学び、臨床で考えるうえでどのように役立つのかを紹介するとともに、その後の新しい医学的知見に照らして、どこまで妥当なのか、どこを修正すべきなのかを検証しながら、考え方をさらに深めていきます。
主な対象は、医学生・研修医・医師を中心とする医療従事者です。患者さん向けの一般的な医学解説や、当院の個別の診療方針を示すことを目的とした連載ではありません。
【膠原病マップの全体像】
マップA(自己免疫と自己炎症)・マップB(浅部と深部)の実際の図は、中外医学社が無料公開しています。
「関節炎がある病気」ではなく、「関節炎を主病態とする病気」
①ではANA関連症候群を、②では血管炎症候群を見てきました。
③では、関節炎症候群を考えます。
関節炎は、多くの膠原病でみられる症状です。
しかし、
「関節炎がある」
というだけでは、病気の位置は決まりません。
ここで見たいのは、
どの関節に。
どのような分布で。
どのような時間経過で。
どの程度、関節炎そのものが病気の中心になっているのか。
です。
関節炎の現れ方から、病態を考える
関節炎にも、自己炎症寄りと自己免疫寄りで、ある程度の傾向があります。
自己炎症寄りでは、
間欠的・発作性。
左右非対称。
単関節〜少数関節。
大関節優位。
といった姿が目立ちやすい。
自己免疫寄りでは、
持続性・進行性。
左右対称。
多関節。
小関節優位。
という姿が目立ちやすい。
また、膠原病マップでは、
脊椎 > 大関節 > 小関節
の順に、より自己炎症寄りの位置に置いて考えます。
もちろん、これは一つの所見だけで病名を決めるためのルールではありません。
関節炎の分布を、病態を考えるための手掛かりとして使います。
25歳女性――RAは「診断したら終わり」ではない
国試出典:第111回 I58
25歳女性。
慢性の多関節炎。
炎症反応上昇。
抗CCP抗体陽性。
第111回 I58は、病名ではなく「最初に選ぶ治療薬」を問う問題です。選択肢は金製剤、抗菌薬、コルヒチン、メトトレキサート(MTX)、シクロホスファミドです。
関節リウマチ(RA)を考える症例です。
RAは典型的には、左右対称の小関節を中心とする持続性多関節炎として現れます。
ただし、ほかの膠原病でも同様の関節炎がみられることがあるため、この段階ではまだRAと決まるわけではありません。
ただ、私がRAを考えるときに重要だと思っているのは、
RAは一つの均質な病態ではない
ということです。
私は、RAは膠原病の中で最も免疫学的な振れ幅が大きい疾患だと考えています。
関節炎が中心の患者さんもいれば、肺病変など関節外病変が問題になる患者さんもいる。
自己抗体の有無や臨床経過にも幅があります。
その幅広さは治療にも表れていて、TNF、IL-6、T細胞、B細胞、JAK経路など、異なる免疫学的標的に対する治療で有効性が示されてきました。
大切なのは、薬剤名を並べることではありません。
同じRAという病名の中にも、病態の幅があるということです。

①②では、病気どうしを比べるために地図を使ってきました。
ここでは初めて、
一つの疾患の中にも幅がある
という見方に地図を使います。
【国試を実際に解く|第111回 I58】
初期治療の選択には治療薬の知識が必要です。禁忌などがなければ、MTXが初期治療の中心となります。
【正答】d:メトトレキサート(MTX)の経口投与。
83歳女性――目立つ所見が少ないことも手掛かりになる
国試出典:第106回 A35
83歳女性。
上腕から肩にかけての痛み。
発熱。
CKは正常。
明らかな末梢関節の腫脹は目立ちません。
この国試の選択肢は、a 偽痛風、b 多発性筋炎、c 関節リウマチ、d 大動脈炎症候群(高安動脈炎)、e リウマチ性多発筋痛症(PMR)です。
筋肉が痛いから筋炎、と考えると合いません。
PMRは「筋痛症」という名前ですが、炎症の主座は筋肉ではなく、主として肩甲帯や骨盤帯周囲の滑液包や関節周囲です。
深部病変や自己抗体を特徴とする疾患でもありません。
またPMRは高齢発症で、急性に発症することも多い疾患です。
こうした特徴も含めて、膠原病マップではPMRを関節炎症候群の中でも自己炎症寄りに位置づけています。
そしてPMRでは、遅発性関節リウマチ(late-onset rheumatoid arthritis:LORA)との鑑別が問題になることがあります。
両者は臨床像が重なることがあり、最初から明確に区別できない症例もあります。
さらにPMRには、もう一つ重要な関連疾患があります。
巨細胞性動脈炎(GCA)です。
【国試を実際に解く|第106回 A35】
この問題の選択肢d「大動脈炎症候群」は、身体診察で目立つ炎症所見が乏しくても全身炎症が続くという点で、鑑別に挙げる意味があります。しかし高安動脈炎は若い年齢での発症が多く、83歳で大型血管炎を疑うならむしろ巨細胞性動脈炎(GCA)が重要です。今回の肩・骨盤帯の症状を合わせるとPMRを優先します。
【正答】e:リウマチ性多発筋痛症(PMR)。
PMRも大型血管炎も、炎症があっても身体診察でその存在を捉えにくいことがあります。これは次節で述べるPMRとGCAの関連にもつながります。
PMRとGCA――分類の異なる2つの病気のつながり
PMRは関節炎症候群として整理しますが、巨細胞性動脈炎(GCA)は大型血管炎です。分類の異なる2つの病気には、臨床的に密接な関係があります。
前の83歳女性の国試ではPMRを診断しました。次の79歳女性の2連問では、PMRを考える症状に頭痛が加わったとき、GCAの合併を見逃さないという視点が必要になります。
国試出典:第113回 B42–43
79歳女性。肩から上腕にかけての痛みがあり、炎症反応は高く、CKは正常。ここまではPMRを考えます。
この2連問の第1問は「まず確認すべきこと」、第2問は「副腎皮質ステロイド治療に伴って注意する検査項目」を問います。
ところが側頭部痛が加わり、巨細胞性動脈炎(GCA)の合併を疑います。GCAでは、眼への血流障害による不可逆的な視力障害を起こすことがあるため、視覚症状の確認が重要です。
【国試を実際に解く|第113回 B42・B43】
【第113回 B42の正答】a:視力低下。
第113回B43は、診断とは別に治療の安全管理を問う問題です。ステロイド薬による高血糖に注意するため、提示された血糖・血小板・総蛋白・補体価・クレアチニンの中から血糖を選びます。
【第113回 B43の正答】a:血糖。
PMRの診断、GCA合併の評価、ステロイド治療の安全管理は、それぞれ異なる段階の判断です。膠原病マップは病態や関連疾患を考える入口になりますが、視力障害の危険性と治療副作用は疾患固有の知識として押さえます。
PMRとGCAをそれぞれの病像から膠原病マップ上に置いたとき、両者が近い位置になったことも、この2つの病気の関係を考える手掛かりになりました。
40歳男性――脊椎病変から自己炎症寄りの病態を考える
国試出典:第81回 D35
40歳男性。
慢性的な背部痛。
脊椎の可動域低下。
HLA-B27陽性。
この国試は、脊椎関節炎・強直性脊椎炎が疑われる症例について「この疾患でみられる所見を3つ選ぶ」という問題です。2020年講義では一部改編した症例として紹介しています。選択肢は虹彩毛様体炎、耳下腺腫脹、血栓性静脈炎、大動脈弁閉鎖不全、仙腸関節炎です。
脊椎関節炎(SpA)、とくに強直性脊椎炎を考える症例です。
RAが末梢の小関節を中心とする滑膜炎として現れやすいのに対し、SpAでは脊椎・仙腸関節などの体軸病変や、付着部炎が重要になります。
膠原病マップでは、
脊椎 > 大関節 > 小関節
の順に、より自己炎症寄りに考えます。
その意味でSpAは、RAより上方、自己炎症側に置きたくなる疾患です。
この症例ではHLA-B27が大きな手掛かりになります。
ただし、HLA-B27陽性だからSpAと診断するわけではありません。
臨床像を見たうえで、最後に関連因子として重ねます。
【国試を実際に解く|第81回 D35】
仙腸関節炎は代表的な関節病変です。膠原病マップでSpAを自己炎症寄りに位置づけると、関節だけでなく、眼の炎症や比較的大きな血管に関わる病変も連想の手掛かりになります。実際、強直性脊椎炎では前部ぶどう膜炎(虹彩毛様体炎)が重要な関節外症状です。また、頻度は高くありませんが、大動脈基部の炎症・線維化などに伴い、二次的に大動脈弁閉鎖不全(AR)を生じることがあります。AR自体が一次性の炎症病変というより、大動脈基部の病変による弁機能障害として考えると、『SpAでAR』も覚えやすくなります。一方、耳下腺腫脹はSpAの典型的な所見ではなく、シェーグレン病などを考える手掛かりです。マップは選択肢の見当をつける道具であり、最後は疾患固有の知識で確認します。
【正答】a・d・e:虹彩毛様体炎、大動脈弁閉鎖不全、仙腸関節炎。
関節病変の分布を手掛かりに疾患へ近づいた後、眼・大動脈弁という関節外病変を知識として重ねて解答します。これらの合併症がすべての患者さんに起こるという意味ではありません。
HLA-B27から、「MHCクラスI関連症」という考え方へ
ここで、少し視野を広げます。
SpAではHLA-B27。
ベーチェット病ではHLA-B51。
高安動脈炎ではHLA-B52。
いずれもMHCクラスIに属するHLAです。
ただし、
MHCクラスIと関連するから、自己炎症寄りに置いた
という順番ではありません。
まず、それぞれの疾患を、
臓器分布。
自己抗体。
臨床経過。
などから、膠原病マップ上に置いていきました。
そのあとで図全体を眺めたときに、あることに気づきました。

図9-2を作っていて、自分でも驚いたこと
先ほどの3疾患が、膠原病マップ上でかなり近い免疫学的位置に並びました。
別々の特徴から位置を決めていった病気が、結果として同じような高さに並んだのです。
さらに、別のところではPMRとGCAも近い位置に置かれました。
PMRとGCAは、最初から「近くに置こう」と考えたわけではありません。
それぞれの臨床像から別々に位置づけていった結果です。
私自身、完成した図を見て、別々の特徴から位置を決めていった疾患どうしの関係が、結果として図の上にも表れていることに驚きました。
「この地図は、単なる疾患の並べ替えではなく、疾患どうしの関係をかなりうまく映しているのではないか」
と感じたことを覚えています。
「点」で覚えていた病気が、「線」でつながる
RAでは、一つの疾患の中にも病態の幅があることを見ました。
PMRとGCAでは、分類の異なる疾患どうしに臨床的なつながりがあることを見ました。
SpA、ベーチェット病、高安動脈炎では、別々に位置づけた疾患が、MHCクラスI関連という別の特徴でもつながりました。
病名を一つずつ覚えているだけでは、こうした関係は見えにくいと思います。
でも、地図の上に置くと、
点だった病気が、線でつながる
ことがあります。
ここまで来ると、膠原病マップは単なる鑑別診断の表ではなくなります。
同じ病名でも、病態は一つではない
同じ病名でも、すべての患者さんが同じ病態を持っているわけではありません。
別の病名がついていても、共通する病態や免疫学的特徴を持つことがあります。
だから私は、膠原病を診るとき、
「この患者さんは何という病名か」
だけではなく、
「この患者さんでは、どの病態が前面に出ているのか」
を見るようにしています。
膠原病マップで見たいのは、病名のラベルだけではなく、その奥にある病態の位置関係です。
次回は、この地図をさらに自己炎症側へ進みます。
ベーチェット病と成人スチル病です。
私自身、この2疾患がなぜ他の膠原病と少し違って見えるのか、うまく理解できなかった時期がありました。
ところが、自己炎症という概念を知ったことで、病気を見るための新しい軸が一本できました。
次回は、その話から始めます。
※国試問題は、原問をもとに要約・再構成しています。出典は各症例に記載しています。