医学生・研修医向け|Dr.前島の膠原病論
2022年に『Dr.前島の膠原病論』を出版しました。
この本は、教科書に並ぶ膠原病の知識を覚えるだけでなく、それらの「点」をどのように「線」でつなぎ、病態や臓器のつながりから考えるか――専門医の頭の中にある一つの「地図」を形にしたものです。
この連載では、本書で示した考え方が、膠原病を学び、臨床で考えるうえでどのように役立つのかを紹介するとともに、その後の新しい医学的知見に照らして、どこまで妥当なのか、どこを修正すべきなのかを検証しながら、考え方をさらに深めていきます。
主な対象は、医学生・研修医・医師を中心とする医療従事者です。患者さん向けの一般的な医学解説や、当院の個別の診療方針を示すことを目的とした連載ではありません。
病気を見るための新しい軸が一本できた
私が医学部に入った頃には、「自己炎症性疾患」という概念はまだ提唱されていませんでした。
自己炎症性疾患という疾患概念が登場したのは1999年です。その後、少しずつ医学の世界に広がっていきました。
私が自己炎症という概念を知ったのは、2008年頃だったと思います。
それまで、ベーチェット病や成人スチル病を診ていると、
「なぜ、この病気はほかの膠原病と少し違って見えるのだろう。」
という違和感がありました。
SLEなどの自己免疫疾患と同じように考えようとすると、どうもしっくりこない。
ところが自己炎症という概念を知って、ベーチェット病や成人スチル病がほかの膠原病と少し違って見える理由を、自己炎症という視点から考えられるようになりました。
頭の中の霧が晴れるような気分でした。
これは、新しい病名を一つ覚えたという話ではありません。
病気を見るための新しい軸が一本できた。
その結果、それまでばらばらに見えていた疾患の位置関係が、少しずつ見えるようになったのです。
これまでの3回では、この地図のいろいろな場所を見てきました。
①ではANA関連症候群、②では血管炎症候群、③では関節炎症候群。
最終回では、そのさらに自己炎症側にある、
自己免疫と自己炎症の境界
を見ていきます。
自己免疫と自己炎症の「間」を考える
自己免疫と自己炎症は、完全に二つの箱へ分けられるものではありません。
膠原病マップでは、両者を連続した関係として捉えています。
自己炎症寄りの病態では、浅部病変、高い炎症反応、特徴的な自己抗体を欠くこと、発作性の経過などが目立ちます。
ただし、すべての疾患がその特徴をすべて備えるわけではありません。
ベーチェット病や成人スチル病には自己炎症的な特徴が強くみられる一方で、自己免疫疾患に近い性質もあります。
そこで、この2疾患を
自己免疫―自己炎症の境界領域
として考えます。

では、国試問題で見てみましょう。
45歳男性――ベーチェット病を自己炎症側から見る
国試出典:第110回 I79
45歳男性。
ぶどう膜炎、口腔内潰瘍、陰部潰瘍、皮疹、関節症状。
ベーチェット病を考える症例です。
膠原病マップで見ると、皮膚・粘膜、眼、関節など、浅部側の病変が目立ちます。
また、ベーチェット病には診断の中心となるような特徴的自己抗体がありません。症状が出たり引いたりする経過もみられます。
これらを合わせると、自己炎症寄りに置きたくなる病気です。
一方で、ベーチェット病には、脳実質病変など深部側の神経病変が生じることがあります。また、病態によっては進行性の経過をとることもあります。
つまり、自己炎症だけで説明できる病気でもありません。
だから私は、ベーチェット病を自己炎症性疾患のど真ん中ではなく、
自己免疫―自己炎症の境界
に置いています。
32歳男性――5つの選択肢を地図の上に置いてみる
国試出典:第95回 G53
32歳男性。
口腔内潰瘍を繰り返し、毛嚢炎様皮疹、陰部潰瘍があります。
ベーチェット病と考えること自体は難しくありません。
面白いのは、その後です。
この問題では、髄膜炎、大動脈瘤、回盲部潰瘍、糸球体腎炎、仙腸関節炎の中から、ベーチェット病でみられるものを選びます。
ここで、この4回で使ってきた考え方をまとめて使ってみます。
回盲部潰瘍
まず、回盲部潰瘍。
消化管は、膠原病マップでは浅部側に置いてきた臓器です。
ベーチェット病では消化管病変を起こすことがあり、回盲部はその代表的な部位です。
したがって、○。
大動脈瘤
次は、大動脈瘤。
ベーチェット病は、特定の血管径だけに限らず、動脈・静脈を含むさまざまな血管に病変を起こし得る variable vessel vasculitis に位置づけられています。
したがって、大動脈瘤も起こり得ます。
さらに②では、
膠原病マップでは、大型血管の病変は小型血管の病変より自己炎症寄りに考える
という見方をしました。
その意味でも、大型血管である大動脈の病変は、ベーチェット病の自己炎症寄りの位置づけとよく合います。
これも○です。
もちろん、「大型血管病変だからベーチェット病」と考えるわけではありません。
すでにベーチェット病と考えられる症例で、その病変が地図の上でも矛盾しないかを見ています。
髄膜炎
では、髄膜炎はどうでしょう。
「神経系だから深部病変」とひとまとめにすると、少し分かりにくくなります。
膠原病マップでは、髄膜と脳実質を分けて考えます。髄膜を、脳実質そのものの神経病変より浅部側に置いて考えるわけです。
また、無菌性髄膜炎は一部の自己炎症性疾患でもみられ、家族性地中海熱やCAPSなどで報告されています。
したがって、髄膜炎はベーチェット病の自己炎症寄りの性質とも矛盾しません。
これも○です。
糸球体腎炎
一方、糸球体腎炎。
①ではSLEの腎病変を、②では小型血管炎による糸球体病変を見てきました。
糸球体腎炎は、膠原病マップではかなり自己免疫寄りの深部病変です。
ベーチェット病の典型的な臓器分布とは合いません。
したがって、×。
仙腸関節炎
最後は、仙腸関節炎です。
関節そのものは浅部病変です。
しかも仙腸関節は身体の中枢側なので、③で見た
脊椎 > 大関節 > 小関節
という考え方からすると、自己炎症寄りです。
ここまでならベーチェット病にも合いそうです。
しかし、仙腸関節炎という具体的な病変はSpAを強く連想させる代表的な所見です。
この設問では、ベーチェット病の典型的所見としては選びません。
したがって、×です。
答えは、
髄膜炎、大動脈瘤、回盲部潰瘍
となります。
この一問には、これまで使ってきた浅部/深部、血管サイズ、病変の主座、自己免疫―自己炎症、そして疾患固有の知識が全部入っています。
膠原病マップだけで答えを出しているわけではありません。
地図で考えられるところまで考えて、最後に覚えている知識を重ねる。
この使い方がよく分かる問題だと思います。
72歳女性――「炎症そのもの」が前面に出る成人スチル病
国試出典:第106回 B52〜54
最後は72歳女性です。
高熱、関節炎、皮疹、強い炎症反応、肝障害、自己抗体陰性、そして著明な高フェリチン血症。
成人スチル病を考えます。
成人スチル病の患者さんを診ていると、
炎症が体外に溢れんばかり
という印象を受けることがあります。
①で見たSLEとは、かなり様子が違います。
SLEでは、腎臓、血球、神経など、どの臓器が免疫異常の標的になっているのかを見ることが重要でした。
成人スチル病では、まず目につくのが全身の非常に強い炎症です。
高熱、関節症状、皮疹、好中球優位の白血球増多、高い炎症反応、高フェリチン血症。
スチル病では、IL-1やIL-6をはじめとする炎症性サイトカインと自然免疫系の活性化が病態の中心にあります。
この病像を見ると、なぜ成人スチル病を自己炎症側から考えるのかが分かってきます。
サーモンピンク疹――皮膚病変までは地図で考えられる
成人スチル病で特徴的なのが、サーモンピンク疹です。
発熱時に淡い紅斑が現れ、解熱すると目立たなくなることがあります。
自己炎症寄りの疾患では、皮膚などの浅部病変が前面に出やすい。
ですから、
「皮膚病変が出てきそうだ」
というところまでは、膠原病マップから考えられます。
しかし、
「その皮疹がサーモンピンク疹である」
ことまでは地図から出てきません。
そこは覚える知識です。
膠原病マップは、暗記をなくすためのものではありません。
覚えるべき知識に、置き場所をつくるためのものです。
肝障害はどう考えるか
この症例には、肝障害もあります。
成人スチル病では、AST・ALTなどの肝酵素が上昇することは珍しくありません。
ただし私は、膠原病マップではこれを、SLEの腎病変のような「免疫異常が深部臓器そのものを一次的に攻撃して生じる病変」とは分けて考えています。
スチル病では自然免疫系が強く活性化し、さまざまな炎症性サイトカインが産生されます。肝臓でも活性化したマクロファージやIL-18などがスチル病に伴う肝炎に関与することが報告されています。
そのため膠原病マップでは、スチル病の肝障害を、
一次性の深部臓器病変というより、強い全身性高炎症に伴って生じる二次的な病変
として整理すると理解しやすいと考えています。
もちろん、実際に肝障害がみられた場合には、薬剤や感染症など、ほかの原因も考える必要があります。
大切なのは、
「肝臓に異常がある」=「自己免疫による一次性の深部病変」
ではないということです。
同じ「臓器障害」でも、どのような病態から生じているのかを見る必要があります。
①のSLEの腎病変、②の血管障害、そして④のスチル病の肝障害。
ここでも、
疾患名や臓器名ではなく、病態を見る
という考え方がつながります。
フェリチンは強い手掛かりだが、それだけでは決めない
成人スチル病では、フェリチンが著しく上昇することがあります。
国試では非常に強い手掛かりです。
しかし、
フェリチンが高い=スチル病
ではありません。
高フェリチン血症は、感染症や悪性腫瘍など、ほかの病態でもみられます。
成人スチル病の診断が難しいのは、その所見の多くが非特異的だからです。
高熱、炎症反応の上昇、白血球増多、肝障害、高フェリチン血症などは、スチル病以外でも起こり得ます。
つまり、これらの多くは、
「非常に強い炎症が起きている」こと自体の表現
でもあります。
そのため、一つの所見だけで決めるのではなく、発熱、皮疹、関節症状、白血球増多、肝障害、高フェリチン血症などの組み合わせと、感染症や悪性腫瘍などほかの病気の可能性を合わせて考える必要があります。
成人スチル病は「発作性の病気」だけではない
自己炎症というと、症状が出たり引いたりする「発作性」を思い浮かべます。
成人スチル病にも、高熱が上がったり下がったりする、発熱に伴って皮疹が現れたり消えたりする、といった非常に自己炎症的な姿があります。
しかし、成人スチル病そのものを単純な「発作性の病気」と考えるのは適切ではありません。
一度のエピソードで寛解することもあれば、再燃を繰り返すこともあり、病態が持続して慢性関節炎が前面に出る経過をとる患者さんもいます。
膠原病マップでは、このような持続・進行性の側面を、自己免疫側の要素として捉えています。
つまり成人スチル病は、
高熱や発熱に連動する皮疹など、非常に自己炎症的な姿
を持ちながら、
持続・進行する病態
も持っています。
こうしたところにも、自己炎症だけ、自己免疫だけ、という二択では捉えにくいこの病気の特徴があります。
ベーチェット病と成人スチル病を、境界に置く理由
ベーチェット病と成人スチル病は、もちろん別の病気です。
しかし、両者には、特徴的な自己抗体を欠くこと、皮膚・粘膜や関節など浅部側の病変が目立つこと、炎症性の病像が前面に出ることという共通点があります。
こうした臨床像を合わせて考えると、自然免疫が前面に出る自己炎症的な側面が見えてきます。
一方で、ベーチェット病には神経病変などの深部病変があり、成人スチル病には持続・進行して慢性関節炎が前面に出る病態があります。
自己炎症だけでも、自己免疫だけでも説明しきれない。
だから、この2疾患を
自己免疫―自己炎症の境界領域
に置いています。
新しい軸が一本できると、地図全体が見えてきた
私にとって、自己炎症という概念を知ったことは大きな転換点でした。
それ以前から、SLE、RA、血管炎、ベーチェット病、成人スチル病という病名は知っていました。
しかし、それぞれを別々に覚えているだけでは、
なぜ似ているのか。
なぜ違って見えるのか。
をうまく整理できませんでした。
そこに、
自己免疫 ←→ 自己炎症
という軸を一本加える。
すると、これまで別々だった病気が、一枚の地図の上でつながり始めます。
①で見た浅部と深部。
②で見た血管サイズと病変の成り立ち。
③で見た一つの疾患の中の幅と、疾患どうしの関係。
そして④の自己免疫と自己炎症。
これらは別々の話ではありません。
すべて、
病名ではなく、その患者さんのからだの中で何が起きているのか
を見るための手掛かりです。
「疾患ではなく病態と対峙する」
病名を一つずつ覚えているだけでは、病気どうしの関係までは見えてきません。
でも、病態を地図の上に置いてみると、
点だった知識が、線でつながる
ことがあります。
私にとって膠原病マップは、そのための地図です。
「疾患ではなく病態と対峙する」。
この4回の国試過去問を通してお伝えしたかったのは、この見方です。
※国試出典は2020年講義原スライドの表記を再確認しています。厚生労働省が現在オンライン公開している回は公開原問とも照合し、旧回でオンライン原問を確認できないものは原スライド表記を採用しています。本文は講義内容に沿って要約・再構成しています。