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Dr.前島の膠原病論

なぜ私は臓器を「浅部」と「深部」に分けたのか?―分子標的薬の効き方から「膠原病マップ」を再検証する―

Dr.前島の膠原病論

2022年に『Dr.前島の膠原病論』を出版しました。

この本は、教科書に並ぶ膠原病の知識を覚えるだけでなく、それらの「点」をどのように「線」でつなぎ、病態や臓器のつながりから考えるか――専門医の頭の中にある一つの「地図」を形にしたものです。

この連載では、本書で示した考え方が、膠原病を学び、臨床で考えるうえでどのように役立つのかを紹介するとともに、その後の新しい医学的知見に照らして、どこまで妥当なのか、どこを修正すべきなのかを検証しながら、考え方をさらに深めていきます。

主な対象は、医学生・研修医・医師を中心とする医療従事者です。患者さん向けの一般的な医学解説や、当院の個別の診療方針を示すことを目的とした連載ではありません。

私は2022年に出版した『Dr.前島の膠原病論』で、膠原病で障害される臓器を「浅部」と「深部」に分けて考える「膠原病マップ」を示しました。

もちろん、「浅部臓器」「深部臓器」というのは、医学で一般に使われている正式な分類ではありません。

「浅部」「深部」という名前は、まず臓器の解剖学的な位置からイメージしたものです。皮膚や関節などは浅部、腎臓や肺などは深部、というのが基本です。

そこには、体の浅い部分ほど外界に近く、外から入ってくる異物などに最初に対応する自然免疫が相対的に重要なのではないか、という私なりの考えもありました。

一方、体のより深い部分では、T細胞やB細胞など獲得免疫の関与が相対的に大きくなるのではないか。そう考えると、膠原病でみられるさまざまな臓器病変を整理しやすく感じられました。[1]

ただし、すべてを体の表面からの距離だけで決めたわけではありません。病変の起こり方や免疫学的な特徴も考えながら、一部については位置づけを調整しています。

つまり「浅部/深部」は、解剖学的な位置を出発点に、免疫学的な意味を重ねた地図です。

この考え方が形になっていった背景

この考え方には、いくつかの経験が重なっています。

一つは、大学病院での診療経験です。

大学病院には、典型的な症状や経過に当てはまらず診断に迷う患者さん、複数の病態が重なっている患者さん、一般的な治療では十分な効果が得られない患者さんなど、難しい症例が数多く集まります。

とくに難治例については、「ここが最後の砦かもしれない」という思いで、あきらめず、何とか治療の糸口を見つけたいと向き合ってきました。

そうした患者さんを数多く診療する中で、同じ病名がついていても、病変の現れ方や治療への反応は一様ではないことを何度も経験しました。

とくに分子標的薬を使うようになってからは、同じ病気に同じ治療を行っても、ある臓器病変はよく改善する一方、別の臓器病変では十分に改善しないことがある、という違いがよりはっきり見えるようになりました。

もう一つは、基礎研究の経験です。

大学院では、関節リウマチの患者さんから得た免疫細胞や滑膜の細胞を使い、サイトカインなどの刺激によって細胞がどう反応するのか、またJAK阻害薬ゼルヤンツによってその反応がどう変わるのかを研究していました。[2]

その経験から、サイトカインや免疫細胞を名前として覚えるだけでなく、どの分子がどの細胞に働き、その結果として免疫反応がどう変化していくのかを具体的にイメージする習慣が身についていました。

そしてもう一つ、大きな手がかりになったのが、自然免疫の異常を中心とする「自己炎症性疾患」でした。

自己炎症性疾患について学んでいくと、皮膚・粘膜、関節・骨、眼、消化管、漿膜など、体の比較的浅い部分に病変が集まりやすいことに気づきました。[1]

自己炎症性疾患では自然免疫の異常が病態の前面に出ます。一方、自己免疫の要素が強くなるにつれて、T細胞やB細胞など獲得免疫の関与がより重要になります。

これを臓器病変と重ねると、皮膚・粘膜、関節、眼、消化管、漿膜、大型血管などの浅部病変では自然免疫寄りの炎症が目立ち、腎臓、肺、神経、血球などの深部病変では、獲得免疫を含む自己免疫的な要素がより目立つ、という大きな流れが見えてきます。

大学病院でのさまざまな診療経験、分子標的薬による臓器ごとの治療反応、基礎研究で身につけた分子・細胞のイメージ、そして自己炎症性疾患から得た視点。

そうしたものが少しずつ重なって、「浅部/深部」という考え方が形になっていきました。

「浅部/深部」は、疾患を機械的に二つへ分けたり、「浅部ならこの治療、深部ならこの治療」と決めたりするための分類ではありません。

複雑な免疫病態を整理して考えるための地図です。

では、2022年の「膠原病マップ」は今も使えるのか?

『Dr.前島の膠原病論』を出版してから4年が経ちました。

その間にも新しい分子標的薬が登場し、さまざまな疾患や臓器病変について臨床試験のデータが蓄積してきました。

そこで今回、2022年に描いた「浅部/深部」の地図に、その後に得られた分子標的薬の治療反応を改めて重ねてみることにしました。

新しい地図を作るためではありません。

2022年に示した考え方が、現在の治療データを重ねてもなお、膠原病を考えるための地図として役立つのかを確かめてみたかったからです。

現在の治療データを重ねてみると

全体を眺めると、私の整理では比較的「自然免疫寄り」に位置づけられるIL-1、TNF、IL-6、IL-17、IL-23などのサイトカインを標的とする治療では、皮膚、関節、体軸、眼、消化管、漿膜、大型血管など、私が「浅部」と考えてきた領域に多くの治療反応がみられます。

一方、T細胞やB細胞に関係する標的まで見ていくと、腎臓などの深部病変にも明瞭な治療反応がみられます。

こうして現在までの情報を重ねてみても、「浅部では自然免疫の関与が相対的に大きく、深部では獲得免疫の関与が相対的に大きい」という2022年の膠原病マップの大きな構成は、現在の知見ともおおむね整合しているように思います。少なくとも、基本的な地図を大きく描き直す必要を感じる結果ではありませんでした。

当然ながら、細かく見ていけば、同じ浅部でも重要な分子が異なることや、互いに近い免疫経路でも臓器によって治療反応が異なることが分かります。

同じ浅部でも、重要な分子は同じではない

分かりやすい例の一つが、大型血管炎です。

大型血管は、私の「膠原病マップ」では浅部に位置します。

巨細胞性動脈炎では、TNFを標的とするインフリキシマブの臨床試験では有効性が示されなかった一方、IL-6受容体を標的とするトシリズマブでは有効性が示されています。[3,4]

同じ大型血管という浅部の病変でも、どの分子を標的にするかによって結果は異なります。

これは先ほど確認した地図の大きな構成を否定するものではなく、その地図の中で、病態を主に動かしている分子が疾患ごとに異なることを示しています。

『Dr.前島の膠原病論』で使った表現を借りれば、同じ浅部で炎症が起きていても、中心となる「火種」まで同じとは限らないということです。[1]

近い免疫経路でも、臓器によって治療反応は異なる

IL-17とIL-23も分かりやすい例です。

この二つは免疫学的に近い関係にあります。

体軸性脊椎関節炎ではIL-17阻害薬の有効性が示されている一方、IL-23を標的とするリサンキズマブの臨床試験では有効性が示されませんでした。[5,6]

一方、クローン病では、リサンキズマブによって臨床的寛解や内視鏡的改善が示されています。[7]

つまり、互いに近い免疫経路であっても、臓器や病態が変われば、治療上重要になる経路も変わることがあるということです。

これも「浅部/深部」という地図そのものを描き直す話ではありません。

むしろ、その地図の上に、「この病態では、どの分子経路がより重要なのか」という目印を書き加えていくことに近いと思います。

深部病変でも、分子標的薬の情報が増えてきた

深部病変についても、治療データは増えてきました。

たとえばループス腎炎では、B細胞の生存に関わるBAFFを標的とするベリムマブを標準治療に加えることで、腎病変の治療成績が改善することが示されています。[8]

さらにCD20を標的とするオビヌツズマブについても、標準治療に追加することで完全腎奏効が改善することが示されました。[9]

こうしたデータを地図に重ねると、自己免疫寄りに位置するB細胞関連の経路と、腎臓のような深部病変との関係も見えやすくなります。

ただし、ある分子を標的とする薬が効いたからといって、それだけで「その分子が病気の原因である」と証明できるわけではありません。

同じ標的でも薬剤によって試験結果が異なることがありますし、背景治療、対象となる患者さん、評価方法などによっても結果は変わります。

ですから私は、分子標的薬の治療反応を、病態を考えるための重要な手がかりの一つとして見ています。

2022年の地図は、今も有益だと考えています

今回、2022年以降に蓄積した分子標的薬の治療データを、「浅部/深部」の膠原病マップに改めて重ねてみました。

その結果、2022年に示した基本的な考え方は、現在の知見ともおおむね整合しており、今も膠原病を考えるための土台として有益だと感じています。

新しい知見によって地図全体を描き直す必要が生じたというより、

2022年に描いた地図の上に、より多くの道路や目印を書き込めるようになってきた。

そんな感覚に近いと思います。

「浅部/深部」は、疾患を機械的に二つへ分けたり、治療薬を自動的に決めたりするための分類ではありません。

複雑な膠原病を整理し、「この患者さんでは、どのような免疫異常が病態を主に動かしているのか」を考えるための地図です。

そして、次の「軸」も考え始めています

『Dr.前島の膠原病論』を出版してから4年。

その間にも、診療や新しい研究、分子標的薬について学ぶ中で、私自身にも新たに見えてきたことがあります。

現在は、「浅部/深部」という地図を土台にしながら、さらに別の軸を加えることで、膠原病をもう少し立体的に捉えられないかと考えています。

まだ検討している途中ですので、結論を急ぐつもりはありません。

ただ、自分の中で考えがまとまってきたものについては、今後このサイトでも少しずつ発信していきたいと思っています。

『Dr.前島の膠原病論』は、複雑な膠原病をどう考えるか、そのための地図を示そうとして書いた本です。

2022年に描いた地図を土台に、新しい知見を重ねながら、これからも膠原病をどう理解すればよいのかを考え続けていきたいと思います。

参考文献

1. 前島圭佑. Dr.前島の膠原病論. 中外医学社, 2022.

2. Maeshima K, Yamaoka K, Kubo S, et al. The JAK inhibitor tofacitinib regulates synovitis through inhibition of interferon-γ and interleukin-17 production by human CD4+ T cells. Arthritis Rheum. 2012;64:1790-1798. doi:10.1002/art.34329.

3. Hoffman GS, Cid MC, Rendt-Zagar KE, et al. Infliximab for maintenance of glucocorticosteroid-induced remission of giant cell arteritis: a randomized trial. Ann Intern Med. 2007;146:621-630. doi:10.7326/0003-4819-146-9-200705010-00004.

4. Stone JH, Tuckwell K, Dimonaco S, et al. Trial of Tocilizumab in Giant-Cell Arteritis. N Engl J Med. 2017;377:317-328. doi:10.1056/NEJMoa1613849.

5. Baeten D, Sieper J, Braun J, et al. Secukinumab, an Interleukin-17A Inhibitor, in Ankylosing Spondylitis. N Engl J Med. 2015;373:2534-2548. doi:10.1056/NEJMoa1505066.

6. Baeten D, Østergaard M, Wei JCC, et al. Risankizumab, an IL-23 inhibitor, for ankylosing spondylitis: results of a randomised, double-blind, placebo-controlled, proof-of-concept, dose-finding phase 2 study. Ann Rheum Dis. 2018;77:1295-1302. doi:10.1136/annrheumdis-2018-213328.

7. D'Haens G, Panaccione R, Baert F, et al. Risankizumab as induction therapy for Crohn's disease: results from the phase 3 ADVANCE and MOTIVATE induction trials. Lancet. 2022;399:2015-2030. doi:10.1016/S0140-6736(22)00467-6.

8. Furie R, Rovin BH, Houssiau F, et al. Two-Year, Randomized, Controlled Trial of Belimumab in Lupus Nephritis. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128. doi:10.1056/NEJMoa2001180.

9. Furie RA, Rovin BH, Garg JP, et al. Efficacy and Safety of Obinutuzumab in Active Lupus Nephritis. N Engl J Med. 2025;392:1471-1483. doi:10.1056/NEJMoa2410965.

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