医学生・研修医向け|Dr.前島の膠原病論
2022年に『Dr.前島の膠原病論』を出版しました。
この本は、教科書に並ぶ膠原病の知識を覚えるだけでなく、それらの「点」をどのように「線」でつなぎ、病態や臓器のつながりから考えるか――専門医の頭の中にある一つの「地図」を形にしたものです。
この連載では、本書で示した考え方が、膠原病を学び、臨床で考えるうえでどのように役立つのかを紹介するとともに、その後の新しい医学的知見に照らして、どこまで妥当なのか、どこを修正すべきなのかを検証しながら、考え方をさらに深めていきます。
主な対象は、医学生・研修医・医師を中心とする医療従事者です。患者さん向けの一般的な医学解説や、当院の個別の診療方針を示すことを目的とした連載ではありません。
【はじめて「膠原病マップ」をご覧になる方へ】
膠原病マップは、さまざまな膠原病を別々の病気として暗記するのではなく、病態の共通点や違い、疾患どうしの関係を整理するために私が考案した教育モデルです。
マップAでは、自己炎症と自己免疫を連続した関係として捉え、マップBでは、浅部・深部の臓器病変の分布から各疾患の特徴を考えます。
膠原病マップA・Bの実際の図は、中外医学社が無料公開しています。
この連載では、このマップを手掛かりに、実際の医師国家試験の問題を解いていきます。
膠原病マップを使った学び方の全体像は『膠原病は、本当に「暗記科目」なのか?』で、浅部/深部という分け方が生まれた経緯は『なぜ私は臓器を「浅部」と「深部」に分けたのか?』で紹介しています。
国試問題を、病名の暗記ではなく「地図」で考えてみる
私は以前から、膠原病を病名ごとにばらばらに覚えるのではなく、病変の分布や免疫学的な特徴を一枚の地図の上で考える方法を、学生さんへの講義で使ってきました。
2019年には医学科6年次生から「講義を受けたい教員」、2020年には「再度講義を受けたい教員」に選んでいただきました。
2020年の総合講義では、この「膠原病マップ」を使って、実際の医師国家試験の過去問を一緒に解いてみました。

その後、この考え方をさらに整理し、2022年に『Dr.前島の膠原病論』としてまとめました。
今回の4回では、当時の講義をそのまま再現するのではなく、国試症例を材料に、
膠原病マップを使うと、ばらばらに見える所見がどう整理されるのか。
を改めて見ていきます。
最初は、SLE、全身性強皮症、皮膚筋炎、MCTD、シェーグレン病などのANA関連症候群です。
まず「浅部」と「深部」を見る
膠原病マップでは、病変がどこに現れているかを、まず大きく浅部と深部に分けて見ます。
浅部側の代表は、
皮膚・粘膜
関節・骨
眼
消化管
です。
深部側の代表は、
肺
腎臓
神経
心臓
です。
浅部病変は外から気づきやすい一方、多くの膠原病に共通してみられます。
そのため、
「皮疹がある」
「関節が痛い」
だけでは、病名を十分に絞れないことがあります。
一方、肺、腎臓、神経、心臓などの深部臓器に病変があると、自己免疫寄りの病態を考えやすくなります。
さらに、血球減少や筋病変なども、膠原病マップでは免疫学的に深部側の情報として扱います。
レイノー現象があれば、ANA関連症候群を考えやすくなる
深部病変の有無や分布から、自己免疫寄りの病態が考えられるかを検討しながら、レイノー現象の有無にも注目します。
レイノー現象は、全身性強皮症、MCTD、SLEなどのANA関連症候群を考える大きな手掛かりになります。
ただし、レイノー現象だけで病名が決まるわけではありません。
ここまでで、
浅部を見る
↓
深部を見る
↓
レイノー現象を見る
と、地図上の大まかな場所を絞ります。
最後に、
特徴的な皮疹
自己抗体
年齢や性別などの背景
疾患に特徴的な合併症
を重ねて、病名を絞っていきます。
特徴的な皮疹と自己抗体は、最後は覚える
膠原病マップは、暗記をなくすためのものではありません。
蝶形紅斑。
ヘリオトロープ疹。
ゴットロン徴候。
皮膚硬化。
こうした特徴的な皮膚所見は、最後は知識として覚える必要があります。
自己抗体も同じです。
SLEでは抗dsDNA抗体や抗Sm抗体。
MCTDでは抗U1-RNP抗体。
シェーグレン病では抗SS-A抗体など。
全身性強皮症では抗トポイソメラーゼI抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体など。
地図で大枠を絞ったあとに、こうした覚えるべき知識を重ねる。
それが、膠原病マップの基本的な使い方です。
24歳女性――まず深部病変からSLEへ近づく
国試出典:第108回 B48
24歳女性。
多関節炎。
発熱。
皮疹。
血球減少。
腎病変。
この国試の問いは「予想される検査所見」です。IgA増加、ASO増加、血清補体価低値、抗糸球体基底膜抗体陽性、ANCA陽性などから選びます。
皮膚と関節は浅部病変です。
これらがあることで、まず膠原病らしい症例だと考えます。
しかし、病名を絞るときに重要なのは、血球減少と腎病変です。
深部側の情報が複数ある。
ここから、かなり自己免疫寄りの病態を考えます。
さらに尿所見から糸球体病変を考え、若い女性という背景と特徴的な皮疹を重ねると、SLEが強く考えられます。
ただし、浅部病変と糸球体腎炎の組み合わせはSLEに限らず、ANCA関連血管炎(AAV)も候補に残ります。
この問題のポイントは、
「SLEのキーワードを全部探す」
ことではありません。
浅部病変
↓
深部病変
↓
病変の主座
↓
特徴的所見
という順番で、候補を狭めていくことです。
【国試を実際に解く|第108回 B48】
最後は覚えている知識を使います。SLEでは免疫複合体などに伴う補体の活性化・消費により血清補体価が低下することがあります。
【正答】c:血清補体価低値。
この問題は、地図で病態を整理し、最後に疾患固有の知識で正答を選ぶ例です。すべてのSLE患者さんで補体価が必ず低いわけではありません。
腎病変を見たら、「腎臓のどこか」を考える
「腎病変がある」というだけでは、まだ情報として粗いと思います。
腎臓のどこに病変があるのかを考えます。
たとえば、
蛋白尿
血尿
変形赤血球
赤血球円柱
などが目立てば、糸球体病変を考えます。
一方、尿濃縮障害や尿細管性アシドーシスなど、尿細管の機能異常が目立つ場合には、尿細管・間質性病変を考えます。
尿細管間質性病変でも尿潜血や顕微鏡的血尿をみることはあるため、
「血尿がある=糸球体病変」
と単純化することはできません。
糸球体病変をより強く示唆するのは、変形赤血球や赤血球円柱などです。
また、腎機能悪化や高血圧が前面に出るのに、尿沈渣の異常が比較的乏しい場合には、血管系の病変を考えることがあります。
つまり、
糸球体なのか。
尿細管・間質なのか。
血管なのか。
を見る。
同じ「腎病変」でも、病変の主座によって意味が変わります。

61歳男性――同じ腎臓でも、SLEとは病態が違う
国試出典:第108回 D47
61歳男性。
皮膚硬化。
レイノー現象。
肺病変。
腎機能悪化。
高血圧。
原問では、皮膚硬化・レイノー現象・間質性肺病変、抗Scl-70抗体陽性の61歳男性にステロイド薬を投与した後、約1週間で血圧が130/84 mmHgから180/100 mmHgへ、血清クレアチニンが0.9 mg/dLから1.9 mg/dLへ上昇しています。問われるのは「今、選ぶべき治療」です。
皮膚硬化とレイノー現象がそろえば、全身性強皮症を強く考えます。
この症例で特に見たいのは、腎病変の中身です。
先ほどのSLE症例では、糸球体を主座とする腎病変を考えました。
一方、この全身性強皮症の症例では、高血圧と腎機能悪化から、血管障害を主座とする強皮症腎クリーゼを考えます。
同じ「腎臓」という臓器が障害されていても、
SLEでは糸球体。
全身性強皮症では血管。
と、病変の主座が違う。
ここで区別したいのは、「腎臓という深部臓器が障害されている」ことと、「免疫異常が深部臓器そのものを直接障害している」ことです。
膠原病マップで自己免疫寄りの手掛かりとして重視する深部病変は、基本的に免疫異常による一次性の臓器病変を指します。
強皮症腎クリーゼでは、腎臓の小血管の障害を背景に腎機能が悪化します。したがって、腎臓という深部臓器に異常が現れていても、免疫異常による一次性の深部病変とは区別して考えます。
ここを見ると、
「腎障害のある病気」
という病名の暗記ではなく、
「腎臓で何が起きているのか」
という病態の違いが見えてきます。
【国試を実際に解く|第108回 D47】
強皮症腎クリーゼではレニン・アンジオテンシン系の活性化が病態に関わるため、ACE阻害薬による治療が重要です。
【正答】e:ACE阻害薬の投与。
ステロイド薬を増量するのは適切ではありません。地図は病変の主座を考える手掛かりとなりますが、ACE阻害薬を選ぶには疾患固有の治療知識が必要です。
40歳女性――皮膚筋炎を考え、合併症を選ぶ
国試出典:第107回 I71
40歳女性。
発熱。
筋力低下。
CK上昇。
皮疹。
この設問で問われているのは病名ではなく、「この疾患で注意すべき合併症」です。候補にはぶどう膜炎、間質性腎炎、間質性肺炎、虚血性心筋症、自己免疫性肝炎が並びます。
筋病変は、膠原病マップでは深部側の情報として扱います。
この時点で自己免疫寄りの疾患を考えます。
しかし、ここから皮膚筋炎まで絞るには、地図だけでは足りません。
ヘリオトロープ疹。
ゴットロン徴候。
こうした特徴的な皮疹を知っているかどうかが最後の決め手になります。
ここは覚えるしかありません。
膠原病マップで考えることで、暗記が不要になるのではなく、
「どこまで地図で考え、どこから知識を使うのか」
が分かりやすくなります。
【国試を実際に解く|第107回 I71】
皮膚筋炎では、肺にも間質性病変を生じ得ます。原問が問う「注意すべき合併症」には、皮膚筋炎と間質性肺炎の関連を知っている必要があります。
【正答】c:間質性肺炎。
マップは筋と皮膚の所見を整理して診断に近づく手掛かりになりますが、実際に選ぶべき合併症は疾患固有の知識です。間質性肺炎の有無や重症度は、実際には呼吸器症状や検査を含めて評価します。
20歳女性――複数の疾患の特徴が重なるMCTD
国試出典:第92回 F4
20歳女性。
レイノー現象。
皮疹。
血球減少。
筋病変。
2020年の講義で一部改編して扱ったこの問題は、「この疾患について正しい記述を3つ選ぶ」という形式です。選択肢は、女性に多い、発症のピークは50歳代、心電図は正常、筋電図は筋原性異常を示す、肺高血圧症が高率にみられる、の5つです。
複数の膠原病の特徴が重なって見えます。
血球減少と筋病変という深部側の所見から、自己免疫寄り。
さらにレイノー現象があるため、ANA関連症候群を考えやすくなります。
そのうえで、
SLE様の血球減少。
皮膚筋炎様の筋病変。
レイノー現象。
という複数の特徴が重なっていることから、MCTDを考えます。
最後に、抗U1-RNP抗体が診断上重要であるという疾患固有の知識を重ねます。
ここでも、
地図で大まかな位置を決める
↓
臨床像の重なりを見る
↓
最後に自己抗体などの知識を使う
という順番です。
【国試を実際に解く|第92回 F4】
MCTDには女性が多く、筋炎を伴えば筋電図で筋原性異常がみられ得ます。肺動脈性肺高血圧症も重要な合併症です。一方、発症のピークを50歳代に限定したり、心電図が必ず正常と考えたりするのは適切ではありません。
【正答】a・d・e。
なお「肺高血圧症が高率にみられる」は当時の選択肢の表現です。すべてのMCTD患者さんに起こるわけではなく、現在は重篤な合併症として注意する、と理解するのが適切です。
この問題も、地図で病態を整理してMCTDへ近づき、最後は疫学・筋電図・合併症の知識で選択肢を判断します。
48歳女性――シェーグレン病を「乾燥だけの病気」と考えない
国試出典:第95回 D53
48歳女性。
眼と口腔の乾燥。
血球減少。
ANA陽性。
2020年の講義で一部改編して扱った設問は、「この患者で高値を示す自己抗体を2つ選ぶ」という問題です。候補は抗dsDNA抗体、抗ミトコンドリア抗体、抗SS-B抗体、抗Jo-1抗体、抗Scl-70抗体です。
眼や口の乾燥があれば、シェーグレン病を思い浮かべること自体は難しくありません。
しかし、この症例でも地図を使います。
血球減少という深部側の情報があり、自己抗体も陽性です。
そこに、涙腺・唾液腺病変を反映する乾燥症状を重ねることで、シェーグレン病へ近づきます。
そしてシェーグレン病は、乾燥症状だけの病気ではありません。
肺、腎臓、神経、血液などに病変をきたすことがある全身性疾患です。
【国試を実際に解く|第95回 D53】
抗SS-B抗体は、この疾患に関連する自己抗体です。
この設問には、胆道系酵素上昇やIgM高値という追加情報もあります。これは原発性胆汁性胆管炎(PBC)の可能性を考える手掛かりで、関連する抗ミトコンドリア抗体も選択します。酵素上昇だけでPBCを確定するわけではありません。
【正答】b・c:抗ミトコンドリア抗体、抗SS-B抗体。
ここでは膠原病マップで自己免疫寄りの病態を考え、乾燥症状からシェーグレン病を疑ったあと、併存し得る別の自己免疫性疾患まで視野を広げます。
ANA関連症候群で、まず身につけたい地図の使い方
ここまでの5症例を並べると、膠原病マップの基本操作が見えてきます。
浅部を見る
↓
深部を見る
↓
レイノー現象を見る
↓
特徴的な皮疹・自己抗体などで病名を絞る
そして、同じ臓器病変でも、
「その臓器のどこが、どのような仕組みで傷んでいるのか」
まで見る。
SLEの腎病変と、全身性強皮症の腎病変が、その分かりやすい例です。
膠原病マップは、病名を当てるためだけの表ではありません。
所見を一つずつ、
「これは地図のどこに置けるのか」
と考えるための道具です。
次回は、ここにもう一つ、
血管の太さ
という視点を加えます。
大型、中型、小型。
さらに、
臓器そのものへの一次性病変なのか。
血管障害の結果として起こる二次性病変なのか。
まで考えると、血管炎の見え方が変わってきます。
※国試問題は、原問をもとに要約・再構成しています。出典は各症例に記載しています。