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Dr.前島の膠原病論

「膠原病マップ」で国試過去問を解いてみる②―血管炎症候群―

医学生・研修医向け|Dr.前島の膠原病論

2022年に『Dr.前島の膠原病論』を出版しました。

この本は、教科書に並ぶ膠原病の知識を覚えるだけでなく、それらの「点」をどのように「線」でつなぎ、病態や臓器のつながりから考えるか――専門医の頭の中にある一つの「地図」を形にしたものです。

この連載では、本書で示した考え方が、膠原病を学び、臨床で考えるうえでどのように役立つのかを紹介するとともに、その後の新しい医学的知見に照らして、どこまで妥当なのか、どこを修正すべきなのかを検証しながら、考え方をさらに深めていきます。

主な対象は、医学生・研修医・医師を中心とする医療従事者です。患者さん向けの一般的な医学解説や、当院の個別の診療方針を示すことを目的とした連載ではありません。

【膠原病マップの全体像】

マップA(自己免疫と自己炎症)・マップB(浅部と深部)の実際の図は、中外医学社が無料公開しています。

膠原病マップA・Bを見る

同じ臓器障害でも、起こり方は同じではない

①では、膠原病を考えるときに、

浅部か、深部か。

どの臓器が障害されているか。

同じ臓器でも、病変の主座はどこか。

を見ることを紹介しました。

SLEの腎病変と、強皮症の腎血管障害は、どちらも「腎臓の病気」です。

しかし、体の中で起きていることは同じではありません。

血管炎を考えると、この違いがさらに分かりやすくなります。

血管炎では、

どの臓器が傷んでいるか

だけではなく、

どの太さの血管に何が起き、その結果として臓器がどう傷んでいるのか

を見る必要があります。

ここで、膠原病マップにもう一つ、

血管の太さ

という視点を重ねてみます。

血管を大型・中型・小型の3つに分けた図。大型は大動脈と主要分枝で、脈拍差・血圧差・血管雑音など。中型は臓器へ向かう中型動脈で、狭窄・閉塞・動脈瘤・虚血/梗塞。小型は細動脈・毛細血管・細静脈で、紫斑・糸球体腎炎・肺胞出血など。
血管の太さで、現れやすい病変の見え方が変わる代表的な見え方を示した概念図で、個々の疾患を一所見だけで分類するものではありません。『Dr.前島の膠原病論』(中外医学社、2022年)図10-1をもとに作成

血管炎では、まず「血管の太さ」を考える

血管炎は、主として障害される血管の大きさによって、大型・中型・小型血管炎に整理できます。

膠原病マップでは、この血管サイズにもある程度の方向性が見えてきます。

大型血管炎ほど自己炎症寄り。

小型血管炎ほど自己免疫寄り。

中型血管炎は、その間に位置します。

上から「より自己炎症寄り」「大型血管炎」「中型血管炎」「小型血管炎」「より自己免疫寄り」を矢印でつないだ図。大型血管炎ほど自己炎症寄り、小型血管炎ほど自己免疫寄りに位置づける著者の教育モデル。
膠原病マップに血管サイズを重ねた著者の教育モデルこれは正式な血管炎分類の追加軸ではなく、著者が病態理解のために用いている膠原病マップ上の整理です。『Dr.前島の膠原病論』(中外医学社、2022年)図10-2をもとに作成

膠原病マップに血管サイズを重ねると、血管炎を自己炎症から自己免疫までの連続した軸の上でも眺めることができます。

さらに、障害される血管の太さに注目すると、同じ臓器の障害でも、その起こり方に違いがあることが分かります。

「その臓器が炎症を起こしている」とは限らない

腎臓を例にしてみます。

小型血管炎では、糸球体の毛細血管が障害され、糸球体腎炎を起こすことがあります。

これは、腎臓の中の非常に細い血管を舞台とした病変です。

一方、中型血管が炎症によって狭窄・閉塞すれば、その先の腎組織への血流が低下します。

その結果として、腎梗塞や腎血管性高血圧が生じることがあります。

どちらも患者さんには「腎障害」として現れます。

しかし、

糸球体そのものを舞台とする病変

と、

血管が障害され、その先の臓器が二次的に傷む病変

では、病態が違います。

私はここを、

一次性の臓器病変

と

血管障害による二次性の臓器病変

に分けて考えています。

腎臓を例に、一次性と二次性の臓器病変を比べた図。一次性の臓器病変:小型血管炎から、糸球体の毛細血管が障害され、糸球体腎炎に至る。血管障害による二次性の臓器病変:中型血管の炎症から、狭窄・閉塞を経て、腎梗塞・腎血管性高血圧に至る。どちらも「腎障害」として現れる。
臓器そのものへの一次性病変と、血管障害による二次性病変「一次性/二次性」は本連載で病態を整理するための表現です。『Dr.前島の膠原病論』(中外医学社、2022年)図10-3をもとに作成

この視点を持つと、血管炎の国試問題がかなり整理しやすくなります。

PANでは、血管障害がどのように臓器障害につながるのか

結節性多発動脈炎(PAN)は、中型血管炎を理解するのに分かりやすい疾患です。

中型動脈に炎症が起これば、

狭窄、

閉塞、

動脈瘤形成、

その先の組織の虚血や梗塞

が起こり得ます。

たとえば腎臓に異常があっても、

「腎臓があるから小型血管炎」

とは限りません。

大切なのは、

腎臓のどこが、どのような仕組みで傷んでいるのか

です。

臓器名だけではなく、病変の主座を見る。

①で使った考え方が、そのまま血管炎にも使えます。

76歳女性――紫斑、末梢神経、腎臓をつなぐ

国試出典:第108回 D33

76歳女性。

紫斑。

末梢神経障害。

腎病変。

高い炎症反応。

この症例でも、まず①と同じように、所見を浅部と深部に分けて考えるところから始めます。

【国試を実際に解く|第108回 D33】

この国試では、老人性紫斑、抗GBM病、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、巨細胞性動脈炎(GCA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)から最も考えられる診断を選びます。

第1段階:まず浅部・深部を整理します。紫斑は皮膚という浅部の所見、末梢神経障害と腎病変は深部臓器に現れた障害です。ただし、深部臓器が障害されていても、免疫異常による一次性の深部病変とは限りません。血管障害による二次的な障害も考えます。

第2段階:紫斑は皮膚の小血管障害を、赤血球円柱は糸球体腎炎を示唆します。末梢神経障害も、神経を栄養する血管の虚血性障害で説明できることがあります。臓器病変を血管障害という共通の病態から考えます。

第3段階:特に糸球体の毛細血管を主座とする炎症が疑われるため、小型血管炎が有力です。末梢神経障害は中型血管炎でも生じ得ますが、糸球体病変を加えると小型血管炎の可能性が高まります。

第4段階:ANCA関連血管炎のうち、喘息・好酸球増多を特徴とするEGPAなどと比較し、今回の臓器病変の組み合わせからMPAを優先します。

【正答】c:顕微鏡的多発血管炎(MPA)。

浅部・深部の分布から出発し、病変の主座、血管の太さ、疾患固有の所見へと進む。これが、この症例で膠原病マップを使う順序です。

60歳女性――肺と腎臓という二つの深部臓器

国試出典:第109回 I76

次は60歳女性です。

肺病変と腎病変があります。

この設問は、肺胞出血が疑われる肺病変と腎病変をもつ患者について、「適切な治療を2つ選ぶ」問題です。選択肢には利尿薬、血管拡張薬、シクロホスファミド、副腎皮質ステロイド、サラゾスルファピリジンが含まれます。

①で使った膠原病マップを思い出すと、

肺と腎臓は、どちらも代表的な深部臓器

です。

深部臓器が複数障害されている。

そうすると、まず自己免疫寄りの病態を考えたくなります。

さらに、肺胞レベルの出血と糸球体病変という組み合わせなら、小型血管を舞台とする病態が見えてきます。

ここまで来ると、

ANCA関連血管炎

が候補に上がります。

そして最後にANCAなどの情報を重ねて、さらに絞っていきます。

重要なのは、

肺+腎だから特定の一疾患に決まる

ということではありません。

まず、

深部臓器が二つ

→ 自己免疫寄り

→ 小型血管を考える

→ AAVなどを鑑別する

→ 自己抗体や疾患特有の所見で絞る

という順番です。

この順番なら、自己抗体の名前を思い出せなくても、かなり近くまで進めます。

【国試を実際に解く|第109回 I76】

MPO-ANCA陽性も合わせてMPAを強く疑います。

ここで求められるのは病名ではなく治療です。重篤な臓器病変を伴うAAVの寛解導入療法という知識から、当時の選択肢では副腎皮質ステロイドとシクロホスファミドを選びます。

【正答】c・d:シクロホスファミド、副腎皮質ステロイド。

これは出題当時の選択肢に対する正答です。現在は病型・重症度・患者背景に応じてリツキシマブ等も選択肢となり得るため、全患者にこの二剤のみを使用するという意味ではありません。地図で病態を整理したあと、治療の知識を使う問題です。

45歳女性――喘息と好酸球が最後の決め手になる

国試出典:第110回 G40

45歳女性。

発熱。

関節症状。

末梢神経障害。

高い炎症反応。

この設問が問うのは「診断に有用な検査」です。候補にはMPO-ANCA、抗Jo-1抗体、抗SS-B抗体、抗Scl-70抗体、抗リン脂質抗体があります。

ここまでなら、複数の血管炎が候補になります。

しかし、この患者さんには、

気管支喘息

+好酸球増多

があります。

この2つを重ねると、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)が一気に考えやすくなります。

ここでも順番は同じです。

まず臓器分布から病態のおおまかな場所を考える。

そのあと、

喘息

好酸球増多

という疾患に特徴的な情報を重ねる。

①で、特徴的な皮疹や自己抗体を最後に使ったのと同じです。

【国試を実際に解く|第110回 G40】

ANCA関連血管炎の病型と抗体の知識を使い、選択肢の中ではMPO-ANCAを選びます。ただしEGPAはANCA陰性例も多く、MPO-ANCA陰性なら否定できるという意味ではありません。

【正答】a:MPO-ANCA。

59歳男性の2問――GPAを疑う所見と、次に調べる臓器

国試出典:第94回 F48/第105回 I73

ここでは、どちらも59歳男性ですが、別々の国試症例を使って、GPA(多発血管炎性肉芽腫症)を考えます。

第94回F48では、鼻閉・鼻汁などの上気道症状に、肺の空洞性病変や尿異常が加わっています。上気道・肺・腎臓という病変の組み合わせからGPAを疑い、関連する抗体を答える問題です。

一方、第105回I73では、鼻出血・鼻汁、副鼻腔の腫瘤、組織所見、PR3-ANCA陽性などからGPAを考えます。この症例では肺・腎臓の病変がすでに確認されたわけではなく、次に調べるべき臓器が問われています。

膠原病マップは臓器分布から候補を考える入口です。ただし、同じ肺や腎臓の病変でも病態はさまざまであり、疾患を絞るには上気道病変や空洞性肺病変など、その性質と組み合わせを確認する必要があります。

【国試を実際に解く|第94回 F48】

この国試は「この疾患でみられる抗体はどれか」を問います。候補は抗核抗体、抗基底膜抗体、抗好中球細胞質抗体、抗ミトコンドリア抗体、抗アセチルコリン受容体抗体です。

GPAはANCA関連血管炎に属するため、選択肢から抗好中球細胞質抗体を選びます。

【正答】c:抗好中球細胞質抗体(ANCA)。

【国試を実際に解く|第105回 I73】

こちらは別の59歳男性の症例で、鼻出血・鼻汁と副鼻腔の腫瘤、組織所見、PR3-ANCA陽性が提示されています。設問は「確定診断のため、さらに精査すべき臓器を2つ選ぶ」です。候補は脳、肺、肝臓、脾臓、腎臓です。

第1段階:上気道症状を出発点に、肉芽腫性炎症とPR3-ANCAからGPAを考えます。

第2段階:肺と腎臓は、さまざまな膠原病・血管炎において、深部臓器の中でも病変が生じやすく、まず異常の有無を確認したい部位です。実際、膠原病マップBを作ってみても、やはり深部病変として肺と腎臓が重要であることが分かります。GPAでも両臓器に病変が及び得るため、上気道以外の病変の広がりを評価するうえで、肺と腎臓を調べます。

【正答】b・e:肺、腎臓。

56歳男性――小型血管炎か、中型血管炎か

国試出典:第92回 F48

末梢神経障害。

腎病変。

高い炎症反応。

この問題は「最も考えられる診断」を選びます。候補には多発性筋炎、RA、PAN、PMR、SLEがあります。

このような症例では、病名だけを見ればMPAもPANも候補に見えることがあります。

そこで、

腎臓が傷んでいる

という情報を、もう一段細かく見ます。

糸球体病変なのか。

それとも、中型動脈の障害による虚血性病変なのか。

ここが分かれば、小型血管炎と中型血管炎をかなり分けやすくなります。

逆に、その情報が十分でなければ、

この症例だけではまだ決め切れない

と考えてよい。

膠原病マップは、何でも一つの病名に当てはめる道具ではありません。

「何が分かれば次に進めるのか」

を見つけるための地図でもあります。

【国試を実際に解く|第92回 F48】

第1段階:発熱、筋痛・関節痛、多発性単神経炎、腎機能障害という臓器分布を整理します。腎臓と末梢神経という深部側の病変からは、選択肢にあるSLEも鑑別に挙がります。

第2段階:ただし、56歳男性という患者背景に加え、高い炎症反応と多発性単神経炎が前面に出ていることから、SLEよりも全身性血管炎を優先して考えます。男性・中高年発症やCRP高値だけでSLEを否定できるわけではありません。

第3段階:末梢神経の虚血性障害や腎臓の血管病変を考慮すると、中型動脈を主座とするPANが候補になります。ただし、この設問の尿所見だけでは糸球体炎を十分に除外できず、現代のMPAとPANを一意に区別できるわけではありません。

第4段階:提示された選択肢の中で全体像に最も合う診断を選びます。

【正答】c:結節性多発動脈炎(PAN)。

当時の国試の正答と、現代の血管炎分類・鑑別診断の厳密さは区別して理解します。マップは、追加で確認すべき病変の主座を示す道具でもあります。

大型血管炎では、「高炎症なのに臓器病変が乏しい」ことがある

ここから大型血管炎へ進みます。

大型血管炎の代表が、

巨細胞性動脈炎(GCA)

高安動脈炎(TAK)

です。

小型血管炎では、紫斑、糸球体腎炎、肺胞出血など、臓器病変が前面に出ることがあります。

ところが大型血管炎では、

炎症反応は非常に高いのに、その強い炎症を説明するような目立った臓器病変が乏しい

ことがあります。

なぜでしょう。

炎症の主座が、

臓器そのものではなく、大きな血管

だからです。

そのため、

脈拍の左右差、

血圧差、

血管雑音、

頭痛、

顎跛行、

視覚症状

など、血管そのものや血流障害を示す所見が重要になります。

これは、小型血管炎とはかなり違う見え方です。

29歳女性――高炎症なのに、目立つ臓器病変が少ない

国試出典:第113回 A55

29歳女性。

左上肢の倦怠感。

頸部血管雑音。

左右の血圧差。

この国試の選択肢は、a ベーチェット病、b 悪性関節リウマチ、c 結節性多発動脈炎(PAN)、d 顕微鏡的多発血管炎(MPA)、e 高安動脈炎です。

高安動脈炎を考える症例です。

この問題は、典型的な所見を知っていれば比較的すぐに解けます。

しかし、膠原病マップでは別の入り方もできます。

まず、

炎症反応は高い。

ところが、

その強い炎症を説明するような目立った臓器病変がありません。

皮膚炎でもない。

多関節炎でもない。

腎炎でもない。

肺病変でもない。

そんなとき、

炎症の主座が大きな血管にある可能性

を考えます。

そこに、

上肢症状、

血管雑音、

血圧差、

若い年齢

を重ねると、高安動脈炎へ近づいていきます。

「高安動脈炎のキーワード」を丸暗記していなくても、

高炎症なのに、臓器病変が乏しい

という違和感から、大型血管炎へ近づけるわけです。

【国試を実際に解く|第113回 A55】

血圧の左右差、左橈骨動脈の拍動低下、頸部血管雑音が重要です。これらは上肢へ向かう比較的太い動脈の狭窄を疑う所見であり、大型血管炎の可能性が強まります。

【正答】e:高安動脈炎。

MPAの問題では臓器病変が手掛かりでしたが、今回は特徴的な臓器病変が乏しいことも出発点になりました。両者を対比することに意味があります。

血管炎を「病名一覧」にしない

血管炎には、たくさんの病名があります。

それを一つずつ暗記すると、非常に複雑に見えます。

でも、まず

大型・中型・小型のどこか。

次に、

臓器そのものへの一次性病変なのか、血管障害の結果として起こる二次性病変なのか。

そして、

どの臓器に、どのような病変が組み合わさっているか。

を見る。

最後に、

ANCA、

喘息と好酸球増多、

上気道病変、

年齢、

脈拍や血圧差

といった疾患特有の情報を重ねていく。

こうすると、病名の羅列だった血管炎が、一枚の地図の上で整理されてきます。

そして、ここでも重要なのは、

同じ病名だから、全員が同じ病態ではない

ということです。

次回は関節炎症候群を使って、この地図をさらに一段深く見ていきます。

病気どうしを地図に置くだけではなく、

一つの疾患の中にも幅があること。

そして、別々に分類されている疾患どうしにも関係が見えてくること。

そこまで進むと、膠原病マップの見え方が少し変わってきます。

※国試問題は、原問をもとに要約・再構成しています。出典は各症例に記載しています。

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