大分市で、リウマチ・膠原病を中心に、内科の慢性疾患を診療しています。

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リウマチ・膠原病の治療は、何年、何十年と続くことがあります。そのあいだに薬は何度か変わり、「いつ、どの薬を使い、なぜやめたのか」を思い出すのは難しくなっていきます。

「治療歴ノート」は、治療の大きな流れを、ご自身の手元にも残しておくための記録です。毎日の日記ではありません。治療が変わったときに数行書き足すだけの、短い記録です。

1. 治療歴ノートとは

治療歴ノートは、次のようなことを1冊(または数枚の用紙)にまとめたものです。

  • どの薬を、いつから、どのくらいの量で使ったか
  • 薬を始めた・増やした・減らした・やめた理由(どの症状や検査が変わったか)
  • その薬が効いたか、副作用が出たか
  • 入院や感染症など、治療に関わる大きなできごと
  • 発症したときの様子と、治療を始める前の検査結果

カルテは医療機関のものですが、治療歴ノートはご自身のものです。医療機関が変わっても、手元に残ります。

2. なぜ残しておくとよいのか

リウマチ・膠原病は、同じ病名でも、病気の性質や薬の効き方が一人ひとり違います。診察や検査で病名は分かっても、どの薬がその方に合うかを前もって正確に知ることはできません。そのため、薬を使ってみて、効き目と副作用を確かめながら、その方に合う治療に近づけていきます。

どの薬が、どの症状や検査に効いたか(あるいは効かなかったか)は、その方の病気の性質を知る大切な手がかりになります。経過が長くなるほど、この積み重ねが、次の薬を選ぶときの判断材料になります。

ところが、その情報は次のような場面で途切れやすくなります。

  • 主治医や医療機関が変わるとき:これまでの経過は、主に紹介状を通じて引き継がれます。紹介状には必要と思われる検査結果や経過を選んで記すため、すべてを書ききれないことがあります。とくに「この薬がこう効いたから、こういう性質の病気だろう」といった医師の見立ては、記録に残りにくいものです。
  • ほかの医療機関にかかるとき:入院、手術、救急外来などで、急いで治療歴を伝える必要が生じることがあります。
  • 経過が長くなったとき:10年前に使った薬のことは、ご本人も医療者も思い出しにくくなります。

もう一つ大切なのが、発症したとき(治療を始める前)の情報です。治療を始めると、症状や検査の異常は軽くなったり消えたりします。そのため、あとからどれだけ調べても、治療前の状態を確かめ直すことはできません。

とくに大切なのは、「以前に副作用が出た薬」と「以前に効かなかった薬」です。これが分かれば、同じ薬を知らずにもう一度使うことを防げます。(経過を知ったうえで、あえてもう一度使うこともあります。)

3. 書いておきたいこと

すべてを書く必要はありません。上から順に、書けるものから始めてください。

優先度項目書く内容の例
◎副作用が出た薬・アレルギー薬の名前、出た症状、時期。じんま疹のように自分で気づく副作用だけでなく、肝臓の数値の異常など、検査で分かった副作用でやめた薬も書きます
◎使ったことのある治療薬薬の名前、使った期間、やめた理由(効かなかった/副作用/病気が落ち着いた/その他)
○治療の変化の記録日付、薬と量の変化、変えた理由(どの症状や検査が変わったか)、効いたかどうか。書き方は次の「4. 書き方の例」をご覧ください
○発症したときの情報発症した時期、治療を始める前の症状、診断を受けた医療機関、そのときに受けた検査、病気の影響が出た臓器(関節・皮膚・腎臓など)。治療前の検査結果の写しがあれば、一緒に保管します
○病名と診断の経過病名、診断された時期と医療機関
○治療中の大きなできごと入院、手術、感染症(風邪・膀胱炎・帯状疱疹・肺炎など)と、そのとき治療薬をどうしたか。ワクチンの接種、骨折、妊娠・出産
△ご自身の「病気の勢いの目安」病気の勢いを知る目安になる症状や検査(「5. ご自身の『病気の勢いの目安』を書き出す」をご覧ください)
△膠原病の薬以外で、よく効いた薬・効かなかった薬痛み、便秘、不眠、風邪、膀胱炎などで使った薬のうち、「これはよく効いた」「効かなかった」と感じたもの
△一度しか調べないことが多い検査診断のときに調べる自己抗体(抗核抗体など)や、免疫を抑える治療の前に調べる感染症(B型・C型肝炎、結核など)の結果
△健診・がん検診受けた日と結果。膠原病の定期的な検査とは別に、がん検診などはご自身で受ける必要があります
△かかっている医療機関医療機関名、診療科、主治医の名前

膠原病の薬以外の薬も書いておくのは、同じ症状に使える薬がたくさんあるからです。以前に「よく効いて、副作用もなかった」薬が分かっていれば、次に同じ症状が出たときに、その薬をお願いすることができます。お薬手帳が何冊にもなると、こうした情報は埋もれやすくなります。

薬の名前は、商品名(例:プレドニン)でも、成分の名前(例:プレドニゾロン)でもかまいません。お薬手帳や薬局でもらう説明書を見ながら書くと正確です。記録が長くなってきたら、次の例のように成分名の略語(例:PSL)を使うと、1回分を1行に収めやすくなります。略語の付け方は医師によって違うことがあるので、初めて書くときに商品名を添えるか、別のページに略語の一覧を作っておくと、ほかの医師にも伝わります。日付は、元号より西暦のほうが、あとで並べたときに見やすくなります。

4. 書き方の例(架空の例)

全身性エリテマトーデス(SLE)で治療中の方を想定した、架空の記録です。院長の講演で示した例をもとにしています。記録の書き方を示すための例で、実際の治療の進め方や薬の量を示すものではありません。

1回の受診を1行にまとめ、「日付+ステロイド薬+免疫抑制薬+免疫調節薬+分子標的薬(生物学的製剤など)」の順に書いています。順番は自由ですが、決めておくと見返しやすくなります。それぞれの薬がどの種類に当たるかは、治療薬について(一覧)で確かめられます。分からなければ、お薬手帳に載っている順でもかまいません。

記入例(架空のSLEの方の治療歴)

  • 20XX/01/01 PSL10mg↓+HCQ200/400mg+BLM200mg/w(経過良好)
  • 20XX/02/01 PSL10mg+AZP50mg開始+HCQ200/400mg+BLM200mg/w(皮疹↑、抗DNA抗体↑)
  • 20XX/03/01 PSL10mg+AZP75mg↑+HCQ200/400mg+BLM200mg/w(皮疹↓、抗DNA抗体→)
  • 20XX/04/01 PSL7.5mg↓+AZP75mg+HCQ200/400mg+BLM200mg/w(抗DNA抗体↓)AZP有効!
  • 20XX/05/01 PSL7.5mg+HCQ200/400mg+BLM200mg/w(肝障害にてAZP中止)
  • 20XX/06/01 PSL7.5mg+TAC3mg開始+HCQ200/400mg+BLM200mg/w(尿蛋白↑、抗DNA抗体↑)
  • 20XX/08/01 PSL5mg↓+TAC3mg+HCQ200/400mg+BLM200mg/w(尿蛋白↓、抗DNA抗体↓)TAC有効!
  • (20XX/09/01〜05 肺炎のため入院、TAC 5日間休薬)
  • (20XX/12/01 ○○ワクチン接種)

記号と書き方の決まり

  • 太字:その日に変わった薬。手書きなら、下線や色ペンで目立たせます
  • ↓・↑:薬の量を減らした・増やした
  • 開始・中止:薬を始めた・やめた
  • ( )の中の↑・↓・→:変えた理由になった症状や検査が、増えた(悪くなった)・減った(良くなった)・変わらない
  • /w:週1回の薬(「/週」と書いてもかまいません)
  • 200/400mg:1日おきに200mgと400mgを交互に使う薬
  • 赤字:効いた薬と、副作用でやめた薬。あとで一番役に立つ情報です
  • ( )だけの行:治療そのものではないけれど関係のあるできごと(感染症、入院、ワクチンなど)

この例で使っている略語

略語成分名主な商品名薬の種類
PSLプレドニゾロンプレドニンステロイド薬
AZPアザチオプリンイムラン、アザニン免疫抑制薬
TACタクロリムスプログラフ免疫抑制薬
HCQヒドロキシクロロキンプラケニル免疫調節薬
BLMベリムマブベンリスタ分子標的薬(生物学的製剤)

この記録から、次のことが読み取れます。

  • 1月:経過が良いので、プレドニゾロンを10mgに減らした。
  • 2月:皮疹が出て抗DNA抗体も上がったため、アザチオプリンを始めた。
  • 3〜4月:アザチオプリンを増やすと皮疹と抗DNA抗体が良くなり、プレドニゾロンをまた減らせた。アザチオプリンが効いた。
  • 5月:肝臓の数値に異常が出たため、効いていたアザチオプリンをやめた。
  • 6月:尿蛋白と抗DNA抗体が増えたため、タクロリムスを始めた。
  • 7月:変化がなかったので、書いていない。
  • 8月:タクロリムスが効き、プレドニゾロンをさらに減らせた。
  • 9月:肺炎で入院し、そのあいだタクロリムスを5日間休んだ。

書き方のこつ

  • 変わったときだけ書く:処方が同じで、体調にも大きな変化がない受診日は、書かなくてかまいません。
  • 変わった薬を目立たせる:太字、下線、色ペンなどで印をつけると、あとで見返しやすくなります。
  • 「効いた」「副作用」ははっきり書く:赤字などで目立たせましょう。
  • 理由を( )で一言そえる:「皮疹↑」「尿蛋白↓」など、どの症状や検査が変わったかを短く書きます。経過が良くて薬を減らしたときは「経過良好」と書いても、省いてもかまいません。理由が分からないときは、診察で「今回変えたのはなぜですか」と聞いてみてください。
  • 治療以外のできごとは( )の行で:感染症や入院のとき、治療薬をどうしたか(休んだ・続けた)が分かると、次に同じことが起きたときの参考になります。ただ、細かいことまで書くと見返しにくくなるので、どこまで書くかはご自身で決めてかまいません。
  • 最近の受診から書き始める:過去の経過をさかのぼって書くのは大変です。まずは次の受診から始めてください。

5. ご自身の「病気の勢いの目安」を書き出す

病気の勢いを知る目安になる症状や検査を、このページでは「病気の勢いの目安」と呼びます(医師は「病勢マーカー」と呼ぶこともあります)。何が目安になるかは、病気によっても、同じ病気でも人によっても違います。ご自身の目安を書き出しておくと、治療歴ノートの( )の中に何を書けばよいかが分かりやすくなります。

目安を知っておくと、次のような場面で役に立ちます。

  • 病気のぶり返しに早く気づく:ぶり返すときは、すべての症状や検査が一度に動くとは限らず、どれか一つから変わり始めることがあります。ご本人が気づかないほど小さな変化のうちに気づければ、治療の調整が小さくて済むことがあります。
  • 薬の効き方を確かめる:薬は、一部の症状や検査だけに効くことがあります。目安ごとに変化を見ると、効いたかどうかを判断しやすくなります。
  • 新しい症状の原因を考える:新しい症状が出ても、ほかの目安が落ち着いたままなら、病気の悪化ではなく、薬の副作用やほかの病気を考えるきっかけになります。

目安になりうるものの例

  • 症状:関節(痛み、腫れ、こわばり)、皮膚・粘膜(発疹、口内炎、潰瘍)、胸(咳、息苦しさ、胸の痛み)、おなか(下痢、腹痛、胸やけ、便秘)、神経(しびれ、力の入りにくさ、頭痛、気分の落ち込み)、眼(見えにくさ)、耳・鼻(鼻炎、聞こえにくさ)、全身(発熱、だるさ、体重減少、むくみ)
  • 検査:血液(CRP、血球の数、腎臓や肝臓の働き、筋肉の酵素、フェリチン、補体、抗DNA抗体など)、尿(尿蛋白など)、画像(X線、CT、MRI、超音波など)

これらはどれも、膠原病以外の原因でも起こります。この一覧に当てはまる症状があるからといって、病気が悪くなっているとは限りません。

記入例(上の架空のSLEの方の目安)

  • 症状・診察:皮疹、関節痛
  • 尿検査:尿蛋白
  • 血液検査:クレアチニン(腎臓の働き)、抗DNA抗体、補体

書き出すときは、目安の名前と、どうやって調べるか(症状・血液・尿・画像など)を書いておきます。主治医に確かめられれば理想ですが、診察の時間が限られていることもあります。分かる範囲で書いて、診察でのやりとりの中で少しずつ埋めていけば十分です。完ぺきを目指す必要はありません。新しい症状が加わるなどして目安が変わることもあるので、ときどき見直してください。主治医にたずねるときの聞き方は、検査結果との向き合い方でも紹介しています。

痛みなどの症状は、「いちばんつらいときを10点とすると、今は何点か」のように数字で表すと、変化が伝わりやすくなります(診察で伝えたいこと:体調を0〜10点で表す)。

6. 使い方と、無理をしないこと

ふだんの診察で、毎回お見せいただく必要はありません。 治療歴ノートは、まずご自身のための控えです。次のような場面で役立ちます。

  • 主治医が変わるとき、ほかの医療機関に紹介されるとき
  • 入院や手術、救急外来を受診するとき
  • 新しい薬を提案されたときに、「以前この薬で副作用が出ました」と伝えるとき
  • セカンドオピニオンを受けるとき

ノートを作ることが、かえって負担になる方もいます。書いているうちに病気のことばかり考えてしまう、と感じたら、無理に続ける必要はありません。頭の中で抱えておく代わりに、紙に書いて置いておく、くらいの気持ちで使ってください。

ノートを作らない場合でも、どんなことを記録しておくとよいかを知っておくだけで、診察で経過を伝えるときの助けになります。

記録が途中からでも、すでに治療が長い方でも、今日から始めてかまいません。まずは「副作用が出た薬」と「使ったことのある治療薬」の2つだけでも、十分に役立ちます。

治療歴ノートには、病名や薬など大切な個人情報が書かれます。保管する場所に気をつけてください。スマートフォンのメモや写真で管理する方法もあります。

7. 記入用紙(PDF)

印刷してそのまま使える記入用紙を用意しています(A4・11ページ)。病名や発症したときの情報、一度しか調べないことが多い検査、病気の勢いの目安、薬の使用歴、治療の記録、ワクチン・健診まで、このページで紹介した項目を書き込めるようにしています。必要なページだけ印刷しても、足りなくなったページを追加で印刷してもかまいません。上の例のような1行ずつの書き方で、ふつうのノートに書いていただいてもかまいません。

執筆:
前島圭佑
最終確認:

本ページは一般的な医学情報です。個別の診療については主治医にご相談ください。

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